プリーに来てはみたけれど

 ほぼ定刻通りにブバネーシュワル駅に到着。やっと22時間にわたる不快な列車道中から解放された。駅を出ると例によってわらわらとリキシャワーラーたちが集まってくる。今からバススタンドまで行き、そこからプリーに向かうんだけど、バススタンドが微妙に遠い。ずっと列車内に軟禁されてて歩きたいのは山々ですが、なにしろバックパックが重すぎてリキシャーを使わざるを得なかった。

 「オールドバススタンドまでいくらかしら?」
 「残念。そこはCLOSEした」

 嘘つけテメー。そんなしょうもない嘘ついたら絶対てめえのリキシャには乗らねーんだぞ。料金ふっかけるほうがまだ可能性はあるだろうに。しかしながら他のリキシャーワーラーたちも口をそろえてクローズしたと言う。どうやら本当のようでした。ごめんなさい。じゃあどうやってプリーに行けばいいの?教えてよ。

 「この近くにバス停がある。そこで待ってろ」

 マジ? 信じるしか道はない。バス停まで行ってみると、人が3人ほどいるだけで、標識みたいなものはどこにもない。インドではバス停というのは人が集まっていればそこがバス停になる。この人たちはプリーに行くのだろうか?しばらく待っているとバスが来た。行き先はヒンドゥー文字でわからないが、親切にも近くのインド人が教えてくれた。これでとりあえずプリーに行ける。

 しかしながらローカルバスである。ローカルバスにだけは乗りたくなかった。でも早朝じゃん。それほど人が多いわけじゃないだろうと思っていた。実際バス停で待ってた人数も数名ほどだったし。…もうね、早朝から地獄です。恒例の超満員&急ハンドル急ブレーキ&わけのわからないBGM(プリー限定:ジャガンナートの歌)&狂ったように鳴り響く4連ホーン。まだ道路が舗装されてて良かったけどね。この不快な車内に2時間。俺はこのような状況になると、心を閉ざす。じっとしている。何も考えない、俺はこの世に存在しない。

 プリーに到着。ここでプリーという町について少し説明します。一応ヒンズーの聖地であるが、バックパッカーにとっても特別な場所。ヒンズーとしては、インドの神々の中でも異端な存在である、ジャガンナートがまつられる。そのジャガンナートは他のヒンズーの神々と違ってあまりにもかわいらしく、また異形で不思議な形をしている。ジャガンナートグッズが買えるのはここプリーくらい。町の中心にはジャガンナート寺院がそびえ立ち、異教徒は入ることが許されない。
 そしてバックパッカーにとって、多くの沈没地の中でも特に沈没者が多い町。つまりしょーもない町だってこと。俺は沈没者が大嫌いで心から軽蔑しているので、正直この町に来ること自体気がのらなかった。ガンジャとアヘンが合法だという噂が流れたことも伝説の地となった理由の一つであるが、日本人の場合、いわゆる日本人宿があまりに強力なため、クソ旅行者がこの地に来て沈没するというわけです。日本語が話せる宿のオーナーのもと、日本人好みのサービスがあり、同じ日本人ばかりが集まり、小さな集団をつくり、お山の大将があらわれ、その大将を崇拝する家来があらわれ、一種のカルトと化し、善し悪しの客観的判断力を失ったカルト教徒が口をそろえて言うわけだ。

 「プリーはいい」
 「プリーはすごく楽しい」
 「プリーは絶対に行くべき」

 プリーはインドとして悪い場所では決してない。むしろ素晴らしい町だと思う。日本人宿が悪いわけでもない。俺はここにきて日本人宿に泊まることにしていた。チェンナイで出会った日本人に熱く語られた。それほどなのか、俺が思っているような宿ではないのかもしれない、と彼を信じていた。
 そんなわけで目的の宿にチェックイン。もうね、沈没するためにあるような宿。サービスが完璧。激安。オーナーが日本語使えてすごく紳士的。メシもついている。ネットもできるし、外に出る必要はまったくなし。当然のごとく宿泊客は全員日本人。俺はチェックインそうそうすぐに帰りたくなった。良くも悪くも究極の日本人宿。沈没者多数。ダメ人間のオンパレード。

 宿はともかく、プリーという地は非常に興味深いものがある。先に述べたジャガンナートもあるが、白けっぱなしの海岸や素朴で漠然とした通り。俗世間と明らかに違う町の雰囲気はとても気に入った。もうすぐにでも出かけずにはいられない。

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