列車のチケットが取れないぜ

 朝だ四時半だ エンエンヤホー。

 さすがに4時半はない。嘘です。日は昇っている。朝日、真っ赤な朝日が窓から俺を照らしていた。その優しさは天女が舞う如くである。清々しさと恍惚さに息をのむほどであった。今しがた上った太陽。まだ優しい光の中に、強い生命力をたたえている。全てを平等に照らし、育み、希望をあたえる光。世界中のいたるところに同時に存在する大いなる太陽。これからどんどん熱く、強くなっていく!憎たらしいぜ!冗談じゃねえよ。俺はもうしばらく寝ることにした。なんで無職の旅人が理由なしに早起きしなきゃいけねえんだよ。

 8時半頃、列車チケットを取りに出かける。やっぱり涼しいうちがいい。ここから駅までかなり遠いしさ、幸い曇り空で歩きやすいしさ。勇んで宿を飛び出したものの、途中、財布を忘れたことに気がつく。腹巻きバッグの中に大金はあるんだけど、リキシャとか食事に使う財布をもっておりましてね、そいつを置いてきたわけです。リキシャには乗れないわけだ。この複雑な迷路のような街、地図も持たずに駅まで行けるのだろうか?

 駅着いたよ。予約センターに行ったよ。外国人窓口があったよ!でもLADIESとSR.CITIZENとも兼ねてるよ。そしてそこが一番混んでたよ…。その専用窓口にもインド人の悪意がはびこっており、パートナーとともに、通常窓口と2段構えマルチスレッドで並ぶ者、妻に並ばせて横から指示を出すダンナ、いったい何を考えているのか、横から割り込んできて追い払われるチビ太などなど。そんな様子を眺めつつ、あたしの番になったわ。問い合わせた席は、わかってはいたけどすべて満席。必殺エマージェンシーチケット(価格の高い緊急者用席)も満席。ちょっと待て、エマージェンシー席がなかったらさ、ほんとに急病人とかが出た時どうするの?

 何も得ることができないままトボトボと帰路についた。ああ、、これからどうしよう。それにしてもどうしてこんなに急に混みだしたのだろう?宿に帰ってスタッフに聞くと、これから大型連休に入るとのこと。インド中で大移動が行われているとのこと。 …この那由他どころの数でないインド人たちが移動するだなんて、地球が傾いたりしないだろうか。というか、列車チケット取れるわけないじゃん。しかも1ヶ月半ものホリデイだって。冗談でしょ?お前ら、もっと働けよ!と無職の俺が声を大にしてだ叫びたい。これからしばらく移動が大変になるなー。

 きっちりスケジュールを組みたい、いや組んでいる俺にとって、このような時間的ロスはかなり痛い。まだまだ行かなきゃならない国があるわけだし帰国時期も決めている。しかし、これがインドを旅するということなんだろうな。思い通りにいかないことなんか、ここインドでは毎日のようにある。何をそんなに急ぐ必要がある?というか、何のためにここにいる?今自分がインドにいることを感じなければいけない。インドは呼ばれないと行くことができない国だって誰かが言ってた。呼ばれたからには理由がある。それは自分で見つけないといけないものかもしれない。
 列車のことはあとで考える。まあバスもあるだろうし。絶対に嫌だけど。とりあえずこの次のアーマーダバードまでは行けるから。

 ようやく朝食ですわ。朝から歩きまくって疲れた喉に、ミリンダがしみわたる。ミリンダって知ってる?ペプシコが発売してるソフトドリンクで、日本にもあるらしいんだけど。コカコーラでいうファンタにあたる。今日も特にやることがないため、とりあえず読書をする。ここのところ読んでるのが阿部公房の「壁」。このサイトのタイトルにも影響を及ぼしているほど、この旅行中は何度も「壁」を読んでいた。もともと阿部公房が好きなので、この小説もすでに読んではいたのだが、なぜかインドでブレイク。とりつかれたかのように読み返したものだ。

 日中は宿のオーナーのガキどもが大騒ぎしている。無邪気なものだ。俺も暇なのでガキどもの中に飛び込んで一緒になって騒いだ。オフシーズンのため、宿に泊まっている客は俺だけだし、ホント暇だったので。

「ガオーーーーーー!!」←俺
「キャーー!キャーー!!」←ガキども

 自堕落な生活の果てに、ついに夜になってしまった。翌朝早朝次の町に行くため、夜のうちにチェックアウトを告げて料金を支払う。ついでに駅までのリキシャを手配してもらう。リキシャを手配した理由はもちろん、犬が恐いからだ。
 宿の女性スタッフから声をかけられる。

「ねえ、ヘナ試してみない?昨日やりたいやりたいって発狂してたでしょ?」

 ヘナとはあのヘナタトゥーのこと。メンディともいう。モラダバルでの記事でも触れたけど、あの独特の模様がとても興味深く、一度やってみたかったんだよ。でもあれって女性が入れるものじゃん、だからまったくチャンスがなかったんだよね。
 俺の左手にスラスラと模様を描いていく。器用なもんだなー。

「描いてる模様って、何かを参考にしてるの?」
「いつも思いついたままに描いているのよ。だから同じデザインはないの」
「すごいねえ。これ商売でやればいいじゃん」
「そこまで上手じゃないからね、趣味でいいわよ」

 というわけで完成。しばらく放置し、肌に色が移ったところでかさぶたを剥がすようにヘナを落とす。とても奇麗に移りました。インドの好きなところはこういうところ。伝統的な服や装飾が色濃く残ってて、欧米化されていないところ。特に女性がね。女性のサリーは色鮮やかで、しかも組み合わせのセンスが素晴らしい。装飾アクセサリもキラキラしてるものばっかりなんだけど、決してうるさくはない。浅黒い肌に鮮やかな服装がとても素敵。ヘナもすさまじい模様だけど違和感がないんだよね。単品ではどぎつい物ばっかりなんだけど、なぜこんなにきれいにまとまるのか、不思議でならない。色の組み合わせだけでいったらバブル時代のアホ女以上の派手さなんだけどな。

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