さよなら、みんな。

 今日でホームステイが終わり。今夜デリー行きのバスに乗る。

 朝から爽やか。雨期の朝は涼しくていいな。昼間はとても暑いけど。子どもたちは早い時間から学校へ行きました。大人たちとテレビを見る。ヒンズー教のリーダーと思われる人が、多くの人々に講和をしている様子。リーダーはたくさんいて、それぞれがグループを抱えているらしい。
 すっかりこの家にもなじんだもので、料理作りや井戸へ水くみといった作業も当たり前のように手伝っている。プージャーだってやるぜ。ワン公と遊んだり散歩に出かけたりと、無職生活を謳歌している。

 カレーによく使う自家製ダヒー(ヨーグルト)の作り方を教えてもらった。ボイルして冷ましたミルクに、すこしだけヨーグルトを入れるだけ。夏場は2,3時間、冬場は一晩寝かせる。それだけ。こうやってできたダヒーは次のダヒー作りに再利用されるわけですね。

 ムルジさんがサイバーカフェに連れて行ってくれた。なんとこの田舎町にもネットカフェがあるらしい。それを早く言ってよ。そのカフェ、看板には「Internet」という表記はなく、「Photoshop」や「C++」という表記で、基本的にここはコンピューターアカデミーらしい。入ってみたらちょうど停電中(笑)。授業できないじゃん(笑)。まあこれがインドの日常。インターネット環境は非常にナローでもちろん日本語など使えないらしい。今ネット使えなくても明日デリーで思う存分できるので問題は全くない。

 その後、ムルジさんの友人宅を訪れる。町議会の議長をしているという人の家で、明らかに裕福なお宅だった。クルマも持っており、邸宅は大きくてきれい。その議長もとても上品で穏やかで面白い人だった。人格者なんだろうね。実際に彼はVipassanaの常連らしく、もう10回近く瞑想コースに参加しているとのこと。道理で穏やかなわけですね。彼は仏教瞑想をしているものの、宗教はシク&ヒンズーで、彼の家にあるテンプルはシク教仕様。隣にドゥルガーもあり、やはりヒンズーと共存していた。3つの宗教を掛け持ちしても何も不都合はない。それによって幸せになれる。宗教のあるべき姿ですね。ちなみに後日聞いたところによると、この方は元マフィアで何人も殺してきたという極悪人のようだ。その罪は決して許されることではない。が、過去は過去、今は今。ブッダの導きにより心を入替え努力している姿は認めるべきであろう。

 彼はいま大きな計画を実行中で、町にマリッジ・パレス、つまり結婚式場をつくっている。まだまだ建設中のマリッジ・パレスに案内してもらう。「ここがダンマ・ホールだ」などと冗談も言っていたが、Vipassanaやった人ならわかるよね。この時点で、完成は半年後だと言っていたので、いま現在はとっくに完成しているんだろう。マンゴーなどいただいて談話しつつ、このナナマタという町についていろいろと話を聞かせてもらった。

 ムルジさんの家に帰宅。子どもたちも帰ってきました。子どもたちと一緒にアニメを見る。よりによってキテレツ大百科を。日本アニメもたくさんやってるんだけど、子どもたちは基本的にアニメを見ないし日本文化にも興味はなさそう。

 ところでバスに乗る時間は20:00頃。行き先はデリーのバススタンドなのだが、中心部からはけっこう離れているらしい。プリペイドリキシャー使えば余裕だよ、70Rsくらいだし。とムルジさんは軽く言っていたのだが、それはインド人が相手の話。これは絶対トラブルになるな・・。

 実はまだ昼間。大人たちと小さいメヘクはお昼寝。アニーだけが起きていた。俺が今日デリーに行くことはアニーに伝えてなくて、どうやら両親から聞いたらしい。

 「シン、今日出発するの?」
 「うん、言ってなかったね。今夜ここを出るんだ」
 「・・・そう」
 「ここを離れるのはとてもさみしいけどね」
 「・・・また、来てくれる?」
 「ああ、絶対にまた来るよ」
 「いつ来るの?」
 「5年以内。5年以内には必ず」
 「長いね。でも、絶対に来てね、約束だよ」

 俺が最もつらいのは、このかわいいアニーとの別れだった。子どもながらに周囲に気を使い、特に俺をすごく気にかけてくれていた。ずっと。気がつけばいつも近くにいて話しかけてくれた。この子と過ごす時間はあとわずか。彼女とゲームなどして思う存分遊んだ。この家族の中で、アニーとは意思の疎通がもっともできた。というのも、英語がかなりできるから。俺よりできるから。いま日本にいるパパジーも英語が堪能だったが、ムルジさんとハニーはそれほど得意じゃない。時々俺達の会話をアニーが通訳することもあった。茶色の澄んだ瞳で俺の何を見ていたんだろう。5年後、再びここに来ると言った。その頃にはアニーも13歳か。すっかり大人だよな。今のような無邪気なアニーではなくなっているだろうな。洋服からパンジャビー・ドレス姿になっているだろうな。今の純粋そのもののアニーとしっかり話しておこう。
 家族のみんなにメッセージを書いた。つたない英語で伝わるだろうか。このあふれる想いを伝えるには、俺の英語力はあまりにも力不足である。英語を話すことにはすっかり慣れたけれど、書くことには慣れていない。

 そろそろ出発の時間です。バスは20時~21時の間に数本あるらしく、出発時間が迫ってそわそわしている俺をよそに、ムルジさんとハニーは超余裕。まったく時間を気にしていない。俺がバスに乗ること忘れてるんじゃないの?ってくらい余裕。20時近くにそわそわが限界に達し、「もうそろそろ行くよ」と告げると、「何言ってんの、夕食を食べて行きなさい」と(笑)。なんだこの余裕は。ムルジさんなんかどこかに出かけちゃったし(笑)。
 家を出たのは20:30頃。それまで余裕だったムルジさんとハニーは急に慌てだしてて笑えた。あわただしく家を出ていく形になったので、ロマンチックな別れのシーンはだいぶ割愛された。でもそれでよかった。そうでないと悲しい別れが長すぎて、いつまでも泣かなければならない。男は涙を見せてはいけないんだ。ハニーはしきりに言っていた。約束を交わした。帰国後は必ず電話すること、ガールフレンドとも話をさせること、手紙を書くこと、そして必ずここに帰ってくる事!

 家を出てちょうどバスが到着。しかし満員で乗れなかった。次のバスは15分後。やや狭いバスだったがなんとか乗れた。空いてる席がほとんどなかった。ムルジさんが無理やり押し込んでくれた感じだった。最後に、お菓子をたくさん渡してくれた。さっき姿を消していたのは、これを買いに行ってくれてたんだな。バスが出発して間もなく、俺は泣いた。

 ムルジさんこそインドの旅で最大の恩人である。彼なしではこんな有意義な旅はできなかった。イライラすることもあったけど、彼の優しさは青天井だった。どこまでも優しくて温かかった。彼と一緒にいると安心できた。友人どころか親友・兄弟のようだった。他人から愛をもらうこと、またあげることがいかに豊かな人生をつくるのかを教えてくれた。俺はこの家族に出会うためにインドに来たのかもしれない。出会いは今日、別れになったけれど、出会ったことは永遠だ。次はいつ会えるのかわからない。会おうとする意志がある限り、永遠なんだろう。これからデリーに行く。また一人旅が始まることに、少し戸惑いつつもテンションが上がってくる。

 バスは夜の道を走る。泣きつかれた俺はいつの間にかウトウトと眠っていた。途中、バスが緊急停車。故障である。道端に止まって1時間以上も修理してやがった。しっかり整備してから出せよコラーーー!

押えきれなくなってく このトキメキと 僕を乗せて
バスは走る真っ直ぐに 眩しい朝を 目指しながら (MAGIC/Highway bus)

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