【邂逅】無職とチンピラ

 後日談で恐縮です。
ウッタラカンド州シタールガンジ滞在中に、ムラタさん(もちろん仮名)という日本人と無理やり電話で話をさせられた、というお話を綴りました。 問題の記事はこちら

 読むのがめんどくさい人のために要約すると、

 1.インドでホームステイ中、家主のムルジさんにマーケットに連れて行ってもらう
 2.そこでムルジさんの友達・グルメートに会う。
 3.グルメートはかつて日本で働いていた。日本の生活が楽しく、また日本人も大好きだと興奮する。
 4.日本で世話になっていたというムラタさんに電話をかけはじめる。
 5.赤の他人であるムラタさんと会話をさせられる。
 6.ムラタさんから、「グルメートからの言付けでももらって来てくれ」と頼まれる
 7.グルメートからメッセージとともに、ムラタさんの連絡先(名刺)を受け取る

 というわけで、帰国後、ムラタさんにグルメートのメッセージを届けに、わざわざ車で埼玉県某所に行ってきたわけだ。世間一般の常識では、一報入れてから訪問するものだけれど、当時のぼくには常識が欠けていたし、とにかくフットワークが軽かった。それにたかが紙切れ一枚渡すだけ。アポなしで突撃するわ。

 ある集合住宅にたどり着く。駐車場に滑り込むと、なーんか感じの悪い、目つきの悪いおっさんが俺の方を見ている。なんか文句あるのかよテメー。何スか?やるんスか? おっさんはその集合住宅に消えていった。さあ、ムラタさんのお部屋はどこかな?集合ポストで名前を確認しようとすると、あのおっさんがいやがった。そして俺に突っかかってきやがった。

「なんだ?」

ほんっと感じ悪いな。

「あ? この団地にいるムラタさんという人を探してるんですけどね?」

「俺だよ」

・・・マジかよおい。残念!思ってたのと違う!全然違う!

「少し前にインドから電話したんですが、憶えてます?グルメートの…」
「おーー!グルメート!あの時の!よく来たな~。おう、寄ってけよ!」

 というわけで、家に上げてもらうことになった。なんか嫌な予感がした。ド平日ですよ。小汚いカッコでフラフラしてるって、普通の人じゃないだろ。俺も無職だけどさ。無職歴1年のベテランだけどさ。
 言われるがままお宅にお邪魔させてもらう。小柄な奥さんと2人暮らしの様子でした。

 当然嫌な予感は的中したわけで、ムラタさんは元ヤクザだった(笑)。いや笑えない。マジでビビったわ。小指がないしさー、挙動がいちいちおっかないんだもん・・。カステラをいただきつつ、グルメートとの馴れ初めを聞かされる。いや、メモ渡すだけでいいんですけど。。もう帰りたいんですけど。。そんな俺の気持ちをよそに、ムラタさんはしみじみと語ってくれた。

 グルメートが日本で働けたのは、このムラタさんが保証人になっていたおかげというのは事実。当時は建設会社(ヤクザ経営)にいたらしい。安い人件費確保のために、アジア各国から労働者を呼んでいたわけだ。しかしながら、タコ部屋で酷使していたわけではないようで、グルメートに見せてもらった当時の写真はとても楽しそうだった。社員旅行にも行ってたし。そもそも、楽しく過ごせていなければあんなハイテンションで俺に絡んできて、あろうことか自宅に招待などしてくれるはずがない。

 ちなみにグルメートを含め、多くの外国人労働者は現在日本への入国を禁止されている。その理由はビザ違反とオーバーステイ。さすがはヤクザ。就労ビザではなかった。入管にバレて日本から追放になったらしい(笑)。

 インド人が日本ビザを取得するのは簡単ではない。きっとヤクザは人身売買などにつかうネットワークをもってるんだろうね。

 ちょっとした美談もアリ。社長が労働者への給料支払いをしていなかった。さすがはヤクザ。そこで、労働者たちと心を通わせていたムラタさんは彼らのために尽力し、社長を説いて給料を支払わせた。その時のトラブルかなんかでムラタさんはヤクザを引退したのだという。 「それで小指なくしたんスか?(笑」 などと言えるわけはない。

 ムラタさんはテンションが上がっており、嬉々としてグルメートに電話をかけ始めた。そして当然俺も話をさせられた。

 このように、ぼくは縁もゆかりもないインド人と、縁もゆかりも持ちたくないヤクザとの架け橋となり、ミッションを完了したわけです。

 ちなみにムラタさん、今は健康食品をネズミで売りさばいているんだって。おまけに学会員でした。軽く勧誘されたよ。

 グルメートからムラタさんへのメッセージはたった3行の簡素なものであった。この3行メッセージを届けただけで、ヤクザ+ネズミ+学会員というトリプル役満を体験できたわけだ。インドマジックがまだ残っていたに違いない。これもまた一興ということで。

「何かあったらいつでも来いよ!」

 かんべんしてください。もう二度と来ません。