犬が苦手な人必見

 ぼくは犬が苦手だ。小さい頃のトラウマで、どうしても「噛まれる…!」と決めつけおびえてしまう。犬はそんな弱気オーラを察知し、優位に立つ。そして威嚇してくる。もう生きた心地がしない。インドでは野犬が多く、そのうえ狂犬病をもっている厄介者も多い。以前テレビで見た、狂犬病患者の凄惨極まる断末魔の最期。ただでさえ恐い野犬に、こんな恐ろしい病気までついてくる可能性があるのだからたまらない。

 犬畜生には東南アジア諸国でも散々いじめられたのだが、そんな悩みをある旅行者に打ち明けたところ、野犬対策を教えてもらった。それは、

ものを投げつける、あるいは投げつけるフリをする

 というもの。確かに野犬たちは、人間に近づくと物を投げられたり棒でぶたれたり、けっこうひどい扱いを受けているのを見た。条件反射ってわけだ。なるほど、と思い、その技を胸に秘めてインドに渡った。だがインドの犬はやけに弱々しい。細いしぐったりしてるし、野生の力が感じられない。ずっと寝てるし、起きてても俺になど目もくれない。

 ある街で野犬に囲まれて大ピンチになった時がある。ジャイサルメールに行った時だった。酷暑期だったので、日中は生命活動が停滞しており、人間はもちろん、動物の姿も見かけなかった。日が暮れてきたころに、道もない高台に上ってしばらく景色を眺めながら休んでいた。

 きれいな夕焼けを眺めつつ、様々な想いをはせて満足した俺は、高台から下り始めた。
 「ウォン!!!」
 ビクッとして声の方を見ると、敵意むき出しの野良犬軍団が全員で俺をにらみつけている。しかもこの馬鹿者どものガタイの良いこと。。敵の数は5匹ってところか。道なき道だから周りには誰一人いない。ここは自分一人で乗り切るしかない。転がっている石を持てるだけ持ち、やつらの傍をゆっくり通る。いよいよワン公たちの威嚇は激しくなり、今にもとびかかりそうな勢い。やられる前にやるしかない。俺は石を投げた。とっさにひるんで少し後ずさる犬ころ。これは効く!やつらに背を見せない体制で、ゆっくり後ずさりしながら石を投げ続け、やつらの縄張りから脱出することができた。昼間は暑くてくたばってる犬ころたちも、気温が下がる頃活動を始めるのか。死ぬかと思った。

 ほっと胸をなでおろしたのも束の間。
 「ウオン!!」
 行く手を阻むように、新たな野良犬軍団が登場。しかも今度は道の両側がふさがっており、そいつらのど真ん中を通り抜けないといけない。後ろには先ほど抜けた軍団がいるから戻ることはできない。いよいよ大ピンチである。とりあえず石を補充。敵の数は5匹以上。グループで行動する犬は、グループで狩りをする。囲まれるのだけは絶対に避けないといけない。俺は石を投げながら、敵の陣をうまく崩していく。通り抜けられる道をまず確保しないといけない。それにしてもおもしろいように後ずさってくれる。先ほどと同じく、ゆっくりと石を投げながら後ずさりをする。

 そうして、無事に抜けることができました。抜けた先は町のはずれ。人もいる。生きた心地がしなかったものの、野犬に対する防御方法を身につけることができた。というわけで、犬が苦手なひとは、ぜひ石を投げよう。あと、音を嫌うと聞いたこともあるので、駄菓子屋なんかにあるかんしゃく玉鉄砲なんか持ってるといいかもしれない。当然ながら、やつらから露骨に逃げてはいけない。逃げたら最後、集団レイプが待っている。やたらかみつく犬は狂犬病の可能性もあるわけだから気をつけたい。