カンニャークマリの朝日

 カンニャークマリ2日目。この土地に来た者は必ずサンライズを見なければならないという鉄の掟がある。早起きするのはいやなんだけど、掟だから仕方ないよ。4時起き。外はまだ真っ暗。暗い海に出かけるのもオツだけど、相変わらず野犬が心配。狂犬病が心配。以前テレビで狂犬病患者の断末魔の最期を見て以来、すっかりトラウマになっている。でも暇だし出かけるか。通りにはすでにインド人が出始めている。しかしながらサンライズが見えそうな絶好のポイントにはまだ人がいない。ゆっくり日の出を待とうじゃないか。

 だんだんと東の水平線が明るくなってくる。インド人もわらわらと集まってくる。この小さな町に、こんなにインド人がいたのか、ってくらいの人の数およそ数百人。あちこちの海岸で同じように人だかりができていることだろう。空が赤く染まってくる。雲の切れ間から光が優しく広がってくる。そして水平線から真っ赤な朝日が、まるで生まれたてのように姿を現す。ヒンドゥーにとって、いや人類にとって太陽はかけがえのない希望の光。古代より信仰の対象にもなってきた。以前皆既日食で太陽が覆われた際、インドでは大騒ぎになった。この世の終わりが到来したと。ここカンニャークマリはインドで唯一、サンライズとサンセットを観察できる地。そういう意味でも特別な聖地なのだ。
 自然はいつだって完璧に美しい。そして冷酷だ。しかしながら周囲で撮影大会でキャイキャイ大騒ぎを始めるインド人ども、お前らもっとしんみりしろよ!

 「おいお前、ちょっと写真撮るからどいてくれ!」

 宿に戻ってしばしの瞑想。それから朝食。売店で売っているパンとレッドバナナ。南インドではおなじみのレッドバナナは極めて濃厚な甘さを誇り、皮が薄く身がぎっしり。とにかく出鱈目な美味さなんですよ。1本7Rsもするんですよ。そんなレッドバナナはそのまま食らうでもいいのですが、パンにはさむとちょうどよろしい。

 駅に行く。これまた恒例の列車チケット取り。これさえなければな。。チェンナイまでのチケットはもっている。その先を取らないと。カンニャークマリの後はマドゥライ→チェンナイで、その後ブバネーシュワルへ一気に移動する予定。さあ、チケットあるかなー?

 「ない。W/L」

 きたーーー!やっぱり!すべてのクラスW/L!俺の大嫌いなW/L!日をずらしてもW/L!まあ今すぐ必要なわけじゃない。チェンナイに行けば外国人用窓口がある。そこにかけるしかない。

 なんの実りも得られぬまま、トボトボと町へ引き返す。こういう不毛なシーンがインドでは極めて多い。そして、暑いなあ!でも海が近いからけっこう気持ちいい暑さ。もはや常連となった町のベーカリーでパンを買い込む。おやつですよ。プレーンのパン4個で10Rs。日本で食べるパンと遜色ない美味しさ。もちろんレッドバナナを挟むわ。立て続けにランチを食べに出かける。ミールス。間食しないように(もうしちゃったけど)、大量にこれでもかというほど食らう。最初だけなんだよね、カレーが美味いの。あとは地獄。すぐ飽きる。クソ暑い食堂でクソ熱くて辛いカレーを、汗をダラダラかきながら食うこの屈辱交じりの快感。とにかくあつい!

 宿に帰ると停電中。このクソ暑いのに。俺はパンツ一丁で中国の旅の計画を立てる。ちなみにインドを出た後はネパール、再びインド、パキスタンを北上して中央アジアを回り、中国へ入り、カシュガル→ウルムチ→蘭州→成都→重慶→上海ってかんじ。先が長い。何度も書いている通り、旅にはすっかり飽きている。もう目的がないんだ。時間の無駄とは言わない。確かに楽しいといえば楽しいし、いつも何かしらの新しい刺激がある。非日常の連続は生きている実感をもたらしてくれる。生命力がみなぎる。その一方で、夜ひとりになると時々極端に気弱になることがある。ホームシックなどではないけど。涙が出る時すらある。いつもある想いをもっている。それがあまりにも大きくて重い。

 夕方、海を眺めに行く。屋台でポップコーンを買って海を眺めながら貪り食う(間食してるじゃねえか)。そして夕食はパンとフィッシュフライ。南インドは魚がよく食べられている。食ってばっかりだなー。でもやることがないんだよね。

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