ダラムサラへ

 今俺は列車の中。モラダバルを出てパターンコートに向かっている。体調はボロ雑巾状態ではあったがしっかり目覚ましアラームはセットしておいた。だが間違った時間にアラームを設定していたみたい。ふと目が覚めると列車は止まっており、アナウンスが聞こえる。大きな駅のようだった。もしやと思い外に飛び出してその辺の人に聞く。

「おはよう。ここはどこ?」
「パターンコートだぜ」
「俺の駅だ!」
「おう、そりゃたいへんだ」

 あわてて荷物を運び出し、なんとか乗り過ごしは回避。あぶなかった。このままだったら紛争地帯・ジャンムー・カシミールに行ってしまうところだった。列車はモラダバルに着いた時点では30分の遅れだったのだが、時間を取り戻し、予定通りの時間に到着していた。こういうこともある。

 さて、これからバスでダラムサラに向かいます。パターンコート駅を出てすぐにバススタンドがあり、バスはここから出るのだろうと思ってそこのおじさんに聞く。乗り場はバススタンドではなく、駅前の路上。親切にもそこまで案内してくれて、バス番号9370と到着時間6時20分とまで教えてくれた。こんな親切なのもまれ。で、ほんとに時間通りにバスが来て、無事乗ることができた。

 ここから3.5時間の道のりである。ダラムサラは大きく2つに分かれており、LowerダラムサラとUpperダラムサラがある。文字通り、Upperの方が高い場所にある。俺の目指すマクロードガンジという地域はUpperの方で、幸いこのバスはマクロードガンジまで直行してくれる。とはいってもやはりローカルバス。頻繁に乗降がありしょっちゅう止まる。バス乗り場はあってないようなもので、人々は自由気ままにバスを止めて乗ったり降りたり。マクロードガンジに着くまでにバスストップは数十回あった。そして例によって超満員。どうみても定員オーバー。まあいつものことですけどね。だがそんな超定員オーバーのバスであるが実に力強く、すさまじい勢いで爆走する。しかしながら坂道に入るとすさまじいのろさ。歩く速度と一緒じゃないの?ってくらい。ダラムサラはかなりの山の中にあるので、道中はスリル満点の山道運転といらいらする牛歩運転を繰り返す。周囲の風景は日本に似ており、サルもたくさんいた。登るにつれて見えてくる大ヒマラヤの絶景が大変美しかった。

 マクロードガンジに着いたのは10時半くらい。山の上だけあり気候は涼しくてかなり快適。春のような気候なんだよね。小さな町でチベット色が強く、インドとはかけ離れているように見える。住む人々の多くがチベット人で、日本人と間違うような顔もたくさんみられる。みやげ物屋やレストランなどなど、すべてチベット色。チベット行ったこと無いけど。そして久々に見る白人集団にうんざりしつつもまずは宿を探さないとね。立地がよさげなゲストハウスを見つけて交渉する。オンシーズンなので200Rsという高さ。値切り交渉をして150Rsにしてもらう。安宿の値段を下げるには連泊を強調するのが効果的。

 部屋は夜に空くとか何とかほざきよるので、俺は今休みたいんだ!と怒りを現わしたところ10分でルームメイクしてくれた。やればできるじゃん。やはり疲れのせいでしょうか。強く当たってしまいますね。でもお客様は神様って言うし。このときの俺の疲労は前回の旅行記事を見ていただければわかるとおり、限界をとっくに超えていた。このゲストハウスは急な坂を下りたところにあるため、そこまで行くのに野垂れ死にしそうになってたくらい。わずか50メートル程度の距離だったが、2回も休憩を挟んだくらい。

 疲労困憊とはいっても、このような変わった町に来るとワクワクが止まらない。休むのは後回しにしてとりあえず町に出てみる。それにずいぶん長い間家族や恋人に連絡をとっていなかったため、ネットカフェにもいかないと。。こまめに生存を伝えるのも大切なことですからね。

 メシ。ネットカフェのすぐ近くにあるチベット料理屋、チベットすいとんタントゥクをはじめて食べた。なにこのうまさ。。尋常ではない。カレー続きだったこともあるが、この調味は日本人好み。ぜひとも家庭で作りたいけどどうすればいいのかいまだにわからない。
 うほほほと舌鼓を打っているとそこへ、ミーハーな中国人女どもが相席してきたのだが、よくこの町にこれるよな。辺り一帯には「Free Tibet」やら「SaveTibet」などといったプロパガンダメッセージが所狭しと掲げられているというのに。お前らさあ、そのアホ面下げてよく来れたもんだねー。さすがチャイニーズ。イヤミも兼ねて問うてみた。

「ねえ君たち、韓国人?」
「…中国人です…」
「…そうか…」

 何という冷たい態度。話しかけなきゃよかったよ。チャイイナー

 宿に戻って久々のシャワーと洗濯。涼しい地域なのでシャワーもホットシャワーだった。ぬるいけどね。快適すぎる気候に甘えるようにベッドに転がっていると、睡眠不足とたまりにたまった疲労により、いつの間にか寝入ってしまった。かなり寝た。気持ちよすぎた。

 起きたのは18時半過ぎ。元気になった俺はマーケットを少し歩き、その後瞑想センターの場所でも確認しておこうと山に入る。実はですね、この町に来た理由は観光ではなく、瞑想なのです。10日間の瞑想コースを申し込んであり、それを明後日に控えているのです。前後入れて2週間、ダラムサラに時間をとってあるのです。瞑想センターはここからさらに山の上にある。けっこうな山登りだな。同じく山を登っているインド人に声をかけてみる。

「ハロー、瞑想センターに行きたいんだけど、どのくらい歩けばいいのですか?」
「ほう。瞑想センターに行くのか。ここからだいたい1km先だ。ちょうど俺もそこに行くんだ、一緒に行くか?」
「あなたもですか。明後日のコースに参加するの?」
「いや、俺はスタッフなんだ」
「へぇ。じゃあきっとまた会いますね」

 それにしても1キロだって…。これ、かなりの山道だよ。急斜面だよ。サルもたくさんいて怖いよ。冗談じゃないよ。遠すぎるだろ。しかし俺は歩き出す。歩かなければならない。明後日クソ重いバックパック背負って行けるのだろうか。これは1時間は見ておいたほうがいいな。それにサンダルじゃきついな。とにかく山の中。買出しもしておかないとまずいかも。予想以上に歩いてセンターにたどり着く。その頃にはだいぶ日が落ちてきており、急いで引き返す。いえね、猿が怖いのよ。すごく凶暴で何度も威嚇されたし戦闘態勢に入るバカ者もいる。暗くなる前に町に下りないと。

 無事下界に下りる。2週間の滞在後は一度デリーに行く予定なので、今のうちにデリー行きのデラックスバスを予約した。エアコン車両ですよ。早とちりした俺は、Lowerダラムサラ発のバスを買ってしまった。Upperから出るデリー行きもあったのにね。夜行バスです。列車よりやや割高だけど乗換えとか考えるとぜんぜん楽。

 すっかり日が落ちた。夜になるとさらに涼しくなる。晩飯は昼と同じYakレストラン。でも食ったのはフライドライス。量が半端じゃない。朝食のパンやバターなどの雑貨を買出しして宿に帰る。久々に一人で心行くまで過ごせる眠れる喜び。思えば長いことひとりになっていなかったな。それはそれでとても幸せなことだけど。ひとりになるといつも考えることがある。それができることが幸せなのかもしれないな。決して他人を避けているわけではない。コミュニケーションはそこそことっていると思う。しかし、ひとりにならなければいけない。それはインドに入った時から心に決めていたことだから。ぼんやりとしながらいつしか深い、あまりにも深い眠りについていくのだった。この町最高。

この日の支出:
バス90Rs 宿150Rs ネット30Rs/hr 昼50Rs チケット750Rs 夕食45Rs 雑貨150Rs

コメント

名前:
メールアドレス:
コメント:

画像の英字5文字を入力して下さい。:
パスワード: