一人旅再開

 5時半に起きた。シャワーを浴びようとしたところ、案の定水しか出ない。ナイニタールの朝の寒さはかなりのもので、髪を洗うので精いっぱいだった。震えながら洗ったよ。

 さて、いよいよこのリゾート地ともお別れ。2泊しかしてないけど。そしてムルジさんともお別れで、また一人旅が始まるわけだ。

 朝のナイニタールもとてもさわやか。リキシャでバススタンドまで行く。ちなみにナイニタールのバススタンドは、一大観光地であるにもかかわらず粗末なものだった。まあ発着便はそこそこあるけどね。俺たちはバスではなく、タクシーでカートゴータム駅まで行く。山道を例によって恐ろしくスリリングな運転で突っ走る。睡眠不足と疲労ですっかり車酔い。カートゴータム駅に着き、ムルジさんに列車のチケットを買ってもらい、停車中の列車に乗り込む。これからとりあえずモラダバルに戻るのだ。

「シン、俺はここまでだ。シタールガンジに帰る」
「ムルジさん、ほんとにありがとう。素晴らしい日々だったよ」
「こちらこそ、だ。気をつけてな。連絡するんだぞ」
「もちろんだよ…」

 感動の別れといきたかったのだが、車酔いでぐったりの俺は、ムルジさんに十分な挨拶ができなかった。非常に悔やまれる。実はしばらくしてまた会うことになるのだが。

 列車は走り出す。再びひとりになる安堵感。不安や寂しさはもちろんあるけど、俺には旅の目的がある。目的を果たす最低条件がひとりになることなのである。いつまでも甘えてはいられない。それにしても、ムルジさんとはリシュケシュで出会ってから長いことお世話になった。ずっとお世話になりっぱなしだった。本当に心から感謝している。インドでこんな素晴らしい出会いがあるとは思わなかった。不安ばっかりだったけど、人はやはり心でつながるもの。言葉がスムーズに伝わらないことはたくさんあったけど、すぐに信頼関係が築けたことはとても幸せなこと。俺をひとりの人間として見てくれた。

 ここからの旅路であるが、ダラムサラを目指します。ダラムサラとは北インドの山の上にある町で、1950年代末にダライラマ14世が多くの同胞とともにチベットから亡命して以来、チベットの亡命政権が置かれていることで広く知られている。インドの中のチベットである。ダラムサラに行くためにはまずここからモラダバルに行かなくてはいけない。そこからダラムサラへアクセスするための最寄の駅、パターンコート駅に行く。チケットもちゃんと買ってありますよ。…ウェイティングリストだけど…。

 モラダバルまではじっと座り、ぐったりしていた。車酔いによるダメージと睡眠不足、そして相変わらず続く下痢により、俺の体はボロボロになっていた。限界になっていた。列車内は変な音楽がずっと流れているし(これがストレスになるんだよね)、窓から吹き込む熱風。ナイニタールという避暑地から下界に降りた途端のこのクソ暑さにはまいってしまう。ずっと座ってはいたものの、モラダバルに着いたころには瀕死の状態だった。食欲もなくてクラッカーを少し食っただけ。バックパックはいつも以上に重く、歩く足もふらふらだった。背中にクソ重いバックパック、前にはこれまた荷物ぎっしりのデイパックとサンドイッチマンになっている。自分の体調にかなりの危機を感じていた。

 問題のW/Lチケットであるが、さてどのくらい繰り上がっているでしょうか。チケットに記載されている番号は3。リザベーションカウンターでまたもやしばらく並び、チェックしてもらう。そしたらなんと、1番だった。ウソだろ、、こんなにキャンセルが少ないのか!チケット買って数日たっているのにキャンセル2人だけかよ。そんなわけはない。これは人種差別だろ。しかしながらこの列車しか選択肢がなく、もし1番のままだったら座席がないわけだ。この死にそうなコンディションでどうすればいいんだ。だがまだ発車まで1時間ある。それに賭けるしかない。発車が近づき、チケットコレクター室に行って最新の情報を見てもらうもやはりキャンセルは出ていなかった。座席は無いけど列車には乗れる。俺はもうヘトヘトでやけっぱちになっていた。乗ってしまえば何とかなる。とりあえず目的地までは行ける。俺は列車に乗り込んだ。

 こんなつらい旅路は無かった。座席がない俺はどうしたかというと、車両の連結部分近くのトイレ近くのわずかなスペースに居座る。つらかったし屈辱的だったぜ。連結部分は事実上ゴミ捨て場で、クソインド人どもがゴミを捨てに来るんだよな。もうじっとしているほかなかった。ゴミと同化してうずくまっていた。でもしっかりバックパックは死守ね。少しでも体を休めなければ危険だった。パターンコートに着くのは翌朝。こんな状態であと何時間過ごせばいいんだ。まあそんな不安など極度の疲労により感じることもなかった。ただただぐったり放心していた。
 夜10時を過ぎ、ようやく席が一つ空いた。乗務員が俺に使えと促す。ありがたい。横たわった俺は一瞬にして眠った。むさぼるように眠った。だが翌朝パターンコートについても、ダラムサラまではそこからバスで3,4時間かかる。どうせとてつもない悪路だろう。まだまだ休息は無い。今は眠るだけ。

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