帰国へ ~旅行記完結~

 30分遅れでデリーに到着。デリーにはさほど興味はないし、これからすぐパキスタンに行くし、特に書くことはありません。インドとパキスタン国境のアムリトサルがインド最後の町になるわけですが、特に観光もせず、黄金寺院にすら行かず、国境越えの通過点に過ぎなかったため、省きます(ごめーんね)。

 長い間ダラダラと書いてきた旅行記ですが、これが最後。最終回。そして帰国の直前まで話を飛ばします。

 インド出国後、いくつかの国を周り、なんだかんだで結局インドに戻ってきた。旅をするにあたりシタールがどうしてもお荷物になるため、デリーのとある宿に預かってもらっていたのが理由の一つ。また、日本への帰国チケットも、出国前に予約をしておいたのですが、デリー国際空港発なので、物理的にどうしてもインドに戻ってこなければならなかったわけです。当初予定したシルクロード東行きの旅は、四川地震の影響がかなり大きく、結局かなわなかった。
 長い旅が終わり、これから日本に帰国します。帰国までほとんど時間がないため、インドでお世話になった家族のところや、思い出深いバラナシへ行くことはできず、デリーで2日間ほどのんびり過ごしました。

 帰国日。宿泊しているメインバザールの宿でトムとジェリーを見つつ荷物を整理していた。帰国を前にすると、もはや旅への未練など皆無となり、もうさっさと帰りたいだけ。日本へのおみやげが非常にかさばり、バックパック、サブバッグ、シタールケースの中まで荷物が満載。これで移動はきついということで、衣類の多くをゲストハウスに放置することにした。きっと宿のスタッフも喜ぶだろう。
 フライトは今夜。もうやることは何もないので気楽なもんです。あとは飛行機が無事飛んでくれることを祈るだけ。天気もいいし、何も問題はないだろう。成田に着いたら、彼女が待っててくれることになっている。変わり果てたぼくを見てどう思うだろうか。

 ヒマなのでネットカフェへ。1時間の利用料、20Rsを支払ったところで、お札の受け取りを拒否される。ボロボロの紙幣だと拒否されることは多々ある。というか、インドの紙幣はすぐボロボロになる。お金の受け渡しの時は、この点に注意しておいた方がいいでしょう。で、拒否されたところでお金はお金。俺はネットカフェのボスともめにもめて強引にボロボロ紙幣を受け取らせた。受け取らせたというよりテーブルに叩きつけて店を出たというのが正解。周囲の人たちの視線が冷たかった。これがインド最後のもめごとだったので一応書いておきますね、お母さん。

 インド国際空港へはリキシャーかタクシーを使う。ルピーがけっこう余っていたのでタクシーをチャーター。タクシーといってもボロボロの小型ワゴン。スクラップ寸前のルックスだ。もちろんエアコンなどなく、オーディオも取り外され、あちこち破れ、へこみ、破損している。しかも道中不調をきたし、道端で修理(笑)。おい、飛行機に乗り遅れたらどうしてくれるんだテメー。。あいかわらずインドだなー、としみじみしつつも、当然腹が立つわ。そしてスリリングな危険運転の連続で、ひたすら恐怖だった。やっぱりインド。もうね、何事も「だってインドだから」のひとことですべて片付く。
 なんとか空港に無事到着。タクシードライバーからチップを要求されるがもちろん無視。ちなみに、乗車前にもなぜかチップを要求された(笑)。デリーは容赦ない。デリーのインド人は全員鬼。極悪非道の人畜生だ。

 空港手続きは特にトラブルもなく、余裕をもってラウンジでくつろげた。イーチケットを本物のチケットに交換し、荷物を預け、危険物チェックをし、ついでにシタールも没収されてX線チェックされ、無事出国手続き完了。ぼくはこの時、相変わらずの長髪&ヒゲ。インドの衣服を着ており、肩にサフラン色の布をまとっていた。そのため、手続きにかかわった空港職員全員から

 「お前、ババ様か?」

 とからかわれる始末。空港職員もインド人ゆえに気さくでした。飛行機は日本直行便。ここまでくると特に感慨深いものもなく、逆に日本に帰れることに喜びいっぱい。帰ったら帰ったで恐怖の就職活動が待っている。1年も無職だったクズ人間を雇ってくれる会社などブラックに違いない。世の中、まじめに生きていた方が吉。楽しさを捨て、ラクを選ぶのが日本人としての正しい選択だ。みんなと同じにしていればいい。フライト時間は約8時間。ほとんど寝てた。

 

 ひたすら寝続けて成田に到着。久しぶりに帰ってきた日本。これから入国手続きです。覚悟はしていたけれど、税関で40分ほど足止めを食らいました。明らかに見た目が怪しい僕は、個別に詳細検査を食らいました。税関職員5名がかりです。彼らが気にしているのは麻薬の持ち込みでしょう。腕に堂々と装着していた偽ロレックスには目もくれず、身体チェック、バックパックの中身、そしてシタールケースの中身をくまなくチェックされた。シタールケースなんかはふつうはX線検査で済むところですが、今回はすべて手で直接検査という徹底ぶり。周囲の日本人の冷たい視線が突き刺さるが、何ももってないからね!ただの検査だからね!

 というわけで、帰国後さっそく屈辱を受け、意気消沈しながらロビーに出ると、彼女が待っていた。変わり果てた姿に、目が合ったにも関わらず気付いてもらえなかった。近づいてジロジロ見ていたにもかかわらず、気付いてもらえなかったのだ。そしてあまりの汚らしさに怒られた。髭くらい剃ってこいと。しかしながら再会は素晴らしいものでした。彼女が言うには、ぼくの目は異様に澄んでいたらしい。後日、結局この彼女とは別れることになりましたが、旅に出させてくれて感謝しとります。

 思えば、インドに呼ばれたことがすべてのはじまりだった。月並なことばですが、インドは呼ばれた人しか行けない。その意味は、呼ばれた人は大切な何かを悟ることができるということだろう。幸いぼくはインドに呼ばれ、インドをきっかけに人生が大きく変わった。つらいことが多すぎたせいもあるだろう、少しは寛大になったし人を悪く言うことも少なくなった。ちょっとは人情深くなったし、社会や世界への視野も広がった。そして孤独を体験したからこそ、人の優しさに感動し、愛の大切さ知った。これらはインドでなくとも学べるものだろう。だが、ぼくの場合はインドでしか学べなかったに違いない。ホント、インドは不思議な国だった。いつまでも天国と地獄が入り混じった、得体のしれない国であってもらいたい。

(インド旅行記 了)

 

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 祝・インド旅行記完結。旅は楽しかったり辛かったり、不毛だったり充実してたり、やめたくなったりやっぱり続けたくなったり、常に生モノです。旅の目的は人それぞれですが、ぼくは目的を達成することができた。というより、もともと目的なんかないようなものだった。真の目的は、旅の中で発見できた。そして正しい答えも見つけられた。

 ある人が言っていた。「自分探しなんかするものじゃない。大事なのは、自分をなくすことだ」 このことばが旅のすべてだと思っている。ぼくは幸いにもその意味を理解できた。旅をする中で体験し、智慧として残った。そして理解できたがゆえに、もう旅に出る必要はないとわかった。ぼくはもう二度とバックパッカーはやらないでしょう。

 今も世界中にはたくさんの旅人が歩いている。それぞれがどんな目的を持っているのか、あるいは目的などないかもしれないが、何かにかられて歩いている。そして何を得て帰ってくるのか、それもまたわからないけれど、きっとみんな、旅をする運命なんだろうね。

どういうわけか俺達は 行方知れずの気まま風 はやる気持ちを止められず どこ吹く風 風任せ
この町とはおさらばさ 北の風に逆らって 南の風にくちづけして どこ吹く風 風任せ
どんどん家が遠ざかる 町の明かりが遠くなる どんどん家が遠ざかる どこ吹く風 風任せ
(騒音寺/風来坊)

コメント


初めまして。インドには行きたくないけれど興味はあるので、もっぱらよそ様の旅日記を拝見しており、こちらに辿り着きました。
所々「ぶっ」と笑ってしまったり、泣きそうになってしまったり、溜飲を下げる思いをしたり(ガンジス川でバタフライをバッサリ斬っておられるあたり。)、私も訪れたネパールのくだりでは、「あーそういえばこんな感じだったなー」と懐かしくなったり。読んでいてとても楽しかったです。
タイやパキスタン、中国のお話し、インドのご家族と日本で再会されたお話も、いつか拝見したいです。

Posted by ダイアナ・ロス at 2012/06/22 00:05:01+09 PASS:

ダイアナ・ロス(!!)さん、はじめまして。
このように粗末で品のない旅行記を読んでいただき、ありがとうございます。
そうですね、別の国のお話もいつか書きたいところです。
書きたいことはたくさんありますので。

Posted by 管理者 at 2012/06/22 12:55:13+09 PASS:

長期休暇の度に旅に出る様になって、
決まった休暇期間の中でしか旅出来ないのはどうなんだだろう?と、会社員の自分に疑問を抱き始めた頃に出会いました。旅行系のブログはよく読みますが、最後まで読んだのは初めてです、ほんとに。私も『1人』を重視しているからですかね。旅先で日本人の気配に勘づくと、ゴキブリの様にガサガサ逃げてしまうので。
正直で、素敵な旅行記でした。

Posted by Hiroko at 2015/11/21 00:37:55.535127+09 PASS:

Hirokoさん
完読、ありがとうございます。お疲れ様でした。
私と同じ価値観をもっていらっしゃるようで大変嬉しく思います!
旅でも社会生活でも常に自分と向き合うことが大切ですね。成長の鍵はいつもそこにあると思い、私もサラリーマン生活を過ごしております。

Posted by 管理者 at 2015/11/29 14:09:07.635044+09 PASS:
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